米国で働く技術系サラリーマンがボヤく事業戦略

米国で働く技術系サラリーマンがコンピュータ・デバイスに関する事業戦略をボヤきます

水平分業化 - さらば「It's a Sony」

これも初回の記事で言及した、「水平分業化」。
筆者が新卒で入社した日立製作所では、全自動洗濯機(なぜ全自動洗濯機?なぜなら、筆者が3カ月間工場実習をしたから)のモータ、スイッチはおろかネジ一本まで系列の子会社、孫会社が作っていた。
子会社、孫会社に部品、部品組み立て品(部組)を作ってもらい、製作所の工場では完成品の組み立てが主な仕事。
ある意味水平分業だが、これは垂直統合型事業の中の水平分業。

水平分業化とは、「餅屋ならどの餅屋にでも作れるようにすること」もしくは「どこの会社の餅でも作れる餅屋になること」だ。
たとえば、Pegatron。
もともとはASUSの一部の設計部門と製造部門を分割した、ODMだ。
いまやiPadの製造受託会社として(本当は秘密なんだけど)有名。
他にも有名な「ASUS以外の」PCなどの受託設計、製造を承っていらっしゃる。
CompalでもWistronでも、Inventecでも、Quantaでもどこでもなんでも作る。

これが深圳ではさらに進化。
各SOCベンダーの参照設計をもとに設計を受託するデザインハウス。
部品の調達と製造会社を引き当てるエージェント。
そして、実際の製造会社。
どこでもなんでも作ってくれる。
「ちょっとこんななんか欲しいんだけど」なんて言う前に、そんなものはすでに出来上がっていて、あとはあなたの名前をいれるだけ。

「プラットフォーム化」「水平分業化」によって、日本のお家芸垂直統合型製造」は家電分野では完全に崩れ去った。
CDではCDフォーマットの標準化から、ピックアップレーザーデバイスサーボモータフロントローディングの機構設計とフィリップスを駆逐したソニーも、mp3の時代ではあまりもそのモデルに固執して、あっという間に中国製mp"7"にやられた。
iPodのような新時代の「水平分業化」の波に乗れず、あっという間にやられた。
Walkmanのブランドバリューも紙くずになった(もったいない)。
護送船団「iモードガラケー」の時代には松下通信、NEC富士通(みんな神奈川なんだよな)の御三家がエラい勢いで携帯を売りつくしていたのが、スマホの時代になってみるも無残にやられた。
カラー液晶、カメラ付き携帯、携帯からのASPへのアクセス、プッシュメール、着メロ、スイカ・・・世界的にも優れた技術、サービスだったが、「プラットフォーム化」「水平分業化」の波に乗れず撃沈。

なんの躊躇もなく言おう、「Samsungさん、ようこそ、敗者組へ!」

プラットフォーム化 - スマホのレゴブロック化

次も初回の記事で言及した、「プラットフォーム化」。
これを「レゴブロック」と称することがあるのだが、ちょっと違う。
レゴブロックだと、なんでもどこにでもついてしまう。
「チャージャーをすべて5Vにして、microUSBの形状のプラグで充電できるようにしましょう」、これは「規格化」だ。

プラットフォーム化とは、ある複合物を構成しやすい、作りやすい複数の構成物に「分割するルール」を決めて、それぞれを規格・標準化することだ。
例えば、マイクロプロセッサと、その上で動作するソフトウェアのインタフェースを規定して、分割する。
Windows PCもアンドロイド・スマホもこれでできている。
ウェブ・ブラウザ上で動作するJava ScriptのAPIを規定して、いろいろなASPにアクセスできるようにする。
ウェブブラウザのプラットフォーム化だ。
LineのASPで提供するウェブAPIを規定して、その上でゲームやその他エンタメアプリが動作するようにする。
ASPのプラットフォーム化だ。
もちろん流行のバズワードクラウド」もクラウドAPIを規定することで、そのプラットフォーム化を進めているのだ。

さて、プラットフォーム化が進むと、何かを作るのが簡単になる。
先のスマホの例で挙げると、(1)各SOCベンダーがlinuxのベースポート(含むBSP)を提供し、(2)GoogleAndroid OS、SDK、NDK、標準アプリ、その他もろもろを提供(SOCベンダーはこのポートまでサポートする)、(3)部品メーカーが自社部品用のデバイスドライバを提供、(4)ISVがいろいろアプリを提供と、「分割のルール」に沿ってそれぞれの会社が部品を提供してくれるので、作るのが楽なのだ。
各セットOEMは「どんなデザインにしようかしら」「カメラは何にしようかしら」「ディスプレイはどれにしようかしら」と選べばよいのだ。
筆者が「金さえあれば、誰でもスマホ会社の社長」と揶揄する理由の一つはここにある。
Windows PCも全く同様だ。

さて、これをするとセットOEMは差別化が大変難しくなる。
何か差別化をしたくてもあくまで「分割のルール」内でしかできなくなるからだ。
一時期「Androidはカメラの露出補正をサポートしないので、そこを自社開発した」など話題になったところだ。
構成物の提供者(プラットフォームプロバイダー)は自社の売り上げを極大化したいから、誰にでも提供する。
「これはうちだけに使わせて」という内緒話など、最初のうちだけで、そのうち皆が同じになる。
それは部品メーカーも同じで、やれ有機ELだ、やれ裏面照射型カメラセンサーだ、やれ9軸センサーだ。
最初のうちは1-2OEMの独占だが、そのOEM自身が二社購買をしたがるがゆえに、すぐに技術の水準化が起こる。
すると部品メーカーのリーダーも、最初から複数のOEMと商売をするようになる。

失敗はしたがノキアが、成功しているAppleが自社プラットフォームに拘る所以はここにある。
差別化の源泉をプラットフォーム化させないことだ。
Appleは最初はOSだけだったが、すぐにアプリケーションプロセッサを内製化した。
そのほかの部品もほぼカスタムだ。
ノキアもベースバンドチップは内製、OSもほとんど内製だった。
思えばノキアが凋落しだしたのは、ベースバンドチップの開発チームをST Microsystemsに移管して、標準品チップを使いだしてからだ。
もっともこれは偶然の一致で、原因は他にあるのだ。

さて立ち返ってみると、iPhoneの凋落(おいおい)は差別化の源泉がOSや基幹部品に寄らなくなってきたためだ。
ノキアがベースバンドチップの内製をやめ、標準品を使いだした理由はそこにある。
さて、次の差別化要因はどこにあるのだろうかーこれはまた別の機会に。

2番手商法ー真似して何が悪いんじゃ、ごるぁ

さて前回のブログで言及した、「2番手商法」。
筆者は学卒で最初に就職した会社が日立製作所なのであるが、当時の社長(金井様、日立略称(本)/(カ))が繰り返し言っていたのは、「(日立)製作所は市場を作りだす会社ではなく、2番手として市場に入り、その技術力で市場での位置を確立する戦略を(うんぬんかんぬん)」。
当時事業戦略なるものとは大きな距離を置いていたので、「そうか、さすが技術の日立」「石橋は叩いてから渡るのだな」などと微妙な洗脳具合で話を聞いていた筆者。
このブログを読んでいる方の中には「2番手商法なんて独創性がない」「他人真似なんてあほじゃない」と思われる方も多いと思う。
蒼いな、真っ青だよ、お尻が。

市場戦略を練る際にいくつかある重要な項目にKey Success Factor (KSF)がある。
直訳なら「成功の鍵」だ。
市場性の分析、市場でのポジション戦略を立てる際に、必ず見る項目だ。
ありていに言えば「市場で成功している他社の成功の秘訣は何ですか?」だ。
成立している市場の横展開をする場合でも、新規市場形成を狙う場合でも、かならず類似の市場を分析して、そこでの成功原因を分析する。
そのうえで、「この会社はこんな風にして市場のポジションを獲得したから、同じようにやればうまく行くんでない?」「あの市場はこんな風にしてうまくいったから、この市場でも同じようにうまく行くんでない?」と分析するのだ。
・・・真似だよ、真似。
うまく行っている人の真似をするのは基本、勉強でもスポーツでも音楽でもなんでもそうでしょう?
最初っから何も見ずにうまくできる訳はないので、まずは真似です。

2番手商法とは、市場を作ってくださった一番手に感謝しつつ、思いっきり真似た商品・商法で市場に入り、あわよくば技術力とかコスト力とか、事業機動性とか自社の強み(そんなものがあればだけど)で一番を狙います、戦略だ。

ここに3C/3P戦略も加わると、お、ちょっと頭いいな、になる。
市場は、場所、ターゲット顧客、品物が変われば別の市場だ。
「1)中国で、2)ユ〇〇ロに似た衣料品店を開いて、3)若い家族を狙い、4)ユ〇〇ロより安く売る」OK、いいでしょう、うまく行きますよ。
「1)アメリカで、2)ビック3が作ってきなようなintermediate車を、3)ママーババ狙いに、4)ビッグ3よりも安く、高品質で売る」いまや、カ〇リもア〇ードもアメ車です。
「1)日本で、2)ミ〇に似た軽自動車を、3)若い男性狙いに、4)本物より安く売る(軽だからね)」バカ売れでしたね。
ええ、みんな通ってきた道なんです。

なので、2番手商法を揶揄するのは、誰であれ天に唾を吐くのと同じ。
じゃぁ市場リーダーはどうしたらよい?はまた今度。

中国コンピュータ製品(含むスマホ、タブレット)メーカはまだ怖くない(除く情報セキュリティ)

PCやスマホタブレットなどの中国製のコンピュータ製品が市場で目覚ましい成長を遂げている、などと書くのは時代遅れだ。
HuaweiやZTEなど、各方面から輸入禁止を受けているメーカは言うに及ばず、XiaomiやOppoVivoなどインドや東南アジアに行けば、そこここに看板がでており、製品の出来も素晴らしい。
「『安かろう悪かろう』の時代は終わった」と書くのもおこがましい。

これらを表すキーワードは「2番手商法」、「プラットフォーム化」、「水平分業化」だ。
それぞれについては後ほどくわしく書くが、要は「売る市場が出来上がった」「モノ作りが楽になった」のだ。
お金さえあれば、誰でもPCや、スマホタブレットを作れる仕組みが出来上がったのだ。

果たして表題に戻るーなぜ怖くないか?
簡単に言えば、彼らは0から1を作った訳ではないからだ。
姉妹ブログにはときおり「師匠」が登場するが、ある師匠の言葉に「1を10にするのは簡単で、本当に難しいのは0から1を作ること」というのがある。
事業戦略、市場戦略的にもその通りで、全くない市場からある程度の数量がコンスタントに生産・販売される市場を作るのは大変難しい。
いろいろなスタートアップが見事に「キャズムの谷」に落ちていくわけである。
先ほど挙げたこれらの中国メーカは、市場を作った訳でも、プラットフォーム化を推し進めたわけでもない。
多くの人が(タブレットは怪しいが)PCを、スマホを必要とする市場がすでに出来上がっていたところに、これらのメーカは入ってきたのだ。
そしてそこにはメディアテックを中心とした山寨機の製造、生産の生態系が出来上がっており、それが見事にスマホ向けに昇華したのだ。
スマホ前史の山寨機はまた別の回で説明する予定)
もちろん群雄割拠、雨後の竹の子とのように生えてくる「N番手商法」の中で勝ち上がってきたのだから、無能であるとか、誰でもできると言う訳ではない。
その中での努力、長けた戦略(があるかどうかは甚だ疑問だが)でその地位を勝ち取ったのである。
ただ今回の題の「まだ怖くない」のポイントは、「0から1を作った訳ではない」だからだ。

中国発で「0から1を」というとAli PayやWeChat Payなどの「少額オンライン決済」、国家レベルで情報を遮断できる「Great Firewall」、IoTやクラウドサービスを駆使しての「人民監視」、少額オンライン決済を起点とした「人民信用管理」などいろいろ目を見張るものがある。
これらに関してはまた別の回に。